とある施設に行った時のこと。
受付のガラスに古めかしい絵がラミネート加工され飾ってあった。
大昔に描かれた鳥獣人物戯画の猿とうさぎがマスクをして、手洗いをしている4コマ漫画。
原画をそのまま利用して、パソコンで加工されたなんともほのぼのとした漫画だった。
その漫画の中にもう一つのキャラクターを見つけた。
最近、ちまたにあふれている”アマビエ様”だ。
忘れもしない令和2年4月1日。
新しい年度の始まりの日にネットで初めてアマビエ様を見た。
波打つ水面に立ち、魚のようでありながら、足が三本。長い髪に鳥のようなくちばしのような口。
半魚人のような得体のしれない妖怪の姿に、なんじゃこりゃ?!
初めの印象はこんな感じだった。
熊本生まれのキャラクター。
くまモンの前にこんな妖怪のキャラクターがいたとは!
熊本県は何か神秘的な場所なのかなぁ?と妄想してみたりして・・・。
19世紀、世界中にコレラが大流行した。
江戸時代後期の日本にもコレラは上陸し、病気にかかるとすぐ死んでしまうことから”虎狼狸・虎狼痢(コロリ)”と呼ばれ恐れられていた。そんな疫病をなんとかしたいと思っていた”想い”が天に通じたのか、ある男性の目の前にアマビエ様がこつ然と姿を現したという。
毎夜、海中に光る物体が出現し、役人が赴いたところ、
「私は、海中に住むアマビエと申す者なり。当年より6ヶ年の間は、諸国で豊作が続くが、疫病も流行する。私の姿を描き写した絵を人々に早々にみせよ。」
と言い伝え、再び海の中へ消えてしまったという伝説がある。
目撃した人物がこのお役人さん一人だけということもあり、実在していたかどうか本当のことはわからない。アマビエ様は当初、「アマビコ」(尼彦、あま彦、天彦、天日子、海彦)と複数の名で呼ばれていたらしいが、書き写しているうちに「コ」が「エ」と誤読されたまま定着したとも言われている。
今回、使われている絵も目撃したお役人さんが描いたものなので、かなりのゆるさである。
お世辞にも上手とは言えないが、その絵の持つ素朴なゆるさが逆にいいのかもしれないと感じた。
完成し過ぎている絵だと、こんな絵、描けっこないよ!と思わせてしまうが、素朴な分、親しみやすく誰にでも描け、アレンジしやすいのかもしれない。
そのせいもあって、さまざまなアマビエ様がいたる所で見受けられる。
しかしながら、アマビエ様だけが、疫病の魔を払う絵だけではないようだ。
疫病を知らせる妖怪として、背に6本の角と胴体に3つの目、そして顔に第3の目がある白馬・白沢(はくたく)にも似た獅子のクタベ、災疫を予見するという身体が牛で顔だけが人面の件(くだん)が知られているとか。でも、今回はゆるめでキャッチーなアマビエ様が適役なのかもしれない。
また、江戸時代、瓦版が新聞のような情報源だった時代、コレラ以外にも疫病が流行り、その病に対して、さまざまな厄除けの浮世絵や錦絵が流行し、庶民の心の拠り所となっていたようだ。
疱瘡(ホウトウ・天然痘の俗称)は、最も怖い病気だとされていた。
この疫病を疱瘡または疱瘡神という厄神の仕業としてこの神を祀る習俗も多かった。
描かれたモチーフはさまざまで、病床にあった中国・唐時代の玄宗皇帝の夢に現れ、鬼を駆逐したと伝えられる道教神・鍾馗(ショウキ)のような神・英雄ほか、でんでん太鼓や春駒、だるま、張り子の犬など、疫病が重症化しやすい子供向けにデザインされた図柄が多い。
また、赤色が呪力的な色として悪霊を払うという意味合いがあり、朱色で描かれた絵も多く残っている。
さらに江戸時代、はしかも大流行した。当時、はしか絵というものもあり、その絵には江戸幕府の検閲を表す「改印」が押されていたという。
「病魔は目に見えず、地震と違って風景も変化がない。しかも、長期間流行が続くため、検閲した江戸幕府もはしか絵が人心の安定に役立つと考えた。」
と『錦絵のちから』(文正書院・刊)の著者・富澤 達三さんは、こんなコメントをしている。
日本は神話大国でもある。それは万物に魂が宿るという発想から生まれてくるものなのかもしれない。
そして、いつの世も人々の平安を導くのはファンタジーの世界から生れてくるメッセンジャーのようなキャラクターが役目を担っているかもしれない。
時代は変わっても人々の求めるものはいつの世も変わらないのかもしれない。
寄る辺ない気持ちをホッコリしたキャラクターの妖怪様が、現代人にもお守り替わりとなり、心の拠りどころとなってくれているようだ。
今やネットの世の中でもある。
世界中、みんなでアマビエ様を描いて、飾って、シェアしながら疫病を退散させ、一日も早いコロナウィルスの終息を願おう!
≪参考文献≫
・ピクシブ百科事典(白沢などの妖怪)
・Wikpededia(アマビエ)
・読売新聞(2020年5月14日朝刊「疫病退散 浮世絵に込め」より)
《アイキャッチ・画 by.Noriko》
髙橋 典子/Noriko Takahashi
画家
岩手生まれ、宮城県亘理町在住。
2004年から個展活動開始。
個展、グループ展多数。
Horizon(水平線・地平線)をテーマに、日常の中、自己が感じたリアリティーを色彩に置き換えた半具象的な平面作品をミクストメディアで製作。
宮城県をベースとし、関東・関西でも展示。
2016年親かめ子かめにて個展「自然形象~Human as a part of nature」開催。
2016年、2018年、海外遠征グループ・宙色Japan「日仏交流展SUMI」(Espace Japon/フランス・パリ)に参加。
文筆作業として、河北新報・夕刊「まちかどエッセイ」にて連載。(2016.10〜2017.2)
また、2014年1月から、ブログ「My Horizon」を開始。絵の製作のことや日々、感じているモノゴトを綴っている。
”描くことと書くこと”に喜びを感じながら創作活動を行っている。