冷たい雨の降る朝。

ワイパーを少し早めにして、フロントガラス越しの大粒の雨をはじき飛ばしながら海岸線を走る。

海沿いの道には、今も防風林の木々がまばらな場所も多く、震災後、波打ち際が見えるようになった場所を木々が覆い隠すこともないまま、9年という月日が経過したその風景は、寂しさを拭い去れないまま、そこにある。

しかしながら、新しい道や住宅地、そして商業施設ができた地域もあり、復興という言葉を象徴するかのように立ち並んでいる。その風景の中に沿岸部の人々の底力と海に対する想いが形となって、今現在の街の風景となっているのだと改めて気付く。

 

今年も被災地の浜辺で大空に凧を揚げながら、東日本大震災で犠牲になられた御霊への鎮魂の祈りを捧げ、浜辺の清掃を併せて行う”笑み舞うスマイルプロジェクト”が行われた。

あいにくの雨模様の開催となり、凧揚げや和太鼓Atoa.による演奏や書家よるパフォーマンス、そして、ビーチクリーンなども中止され、内容も簡素化しての縮小バージョンとなった。

コロナウィルスの影響であらゆるイベントが相次ぐ中止となる中、主催者側のスタッフは、今年もやる気満々でスタンバイしていただけに、無念さが残ってしまった。

 

宮城県仙台市若林地区・荒浜海岸の集合場所から雨をしのぐため近くの施設へ移動。
オレンジ色の屋根が目印の海岸公園センターハウスのご好意でしばらくの間、軒下をお借りしての開催となった。

集ったいつもの面々。

家に籠っていた日々が続いていた私にとっても、久々に大勢の人に会い、挨拶を交わし、その表情に、笑顔に触れて、相変わらず和やかな雰囲気になんだかホッとした気持ちになった。

毎回、参加されている仙台凧の会の方々もいつも着ている年季の入った法被姿で、にこやかに小さい凧を子供たちに手渡し、紐の結び方を教えたりしていた。

 

 

恒例の凧への絵付けワークショップは予定通りに行われた。
今回、凧に使用した紙は、宮城県仙南地区にある丸森町の丸森和紙。
去年の台風19号による甚大な被害があった地域でもある。
400年以上の歴史を持つ手漉きの技法で今もなお作られている。
柔らかく、繊細できめ細やかな質感は、漉き手のぬくもりを感じさせる。
その紙面に想いをしたためるように筆を進めた。

 

空、地、松、花、自然、海、光、晴、笑、和、黙。

 

書家の先生方を筆頭に、集まった大人も子供も思い思いの言葉や絵を書きワークショップを楽しんでいた。


私も姪っ子と一緒に参加した。

筆を握り、彼女はかわいい太陽を描いていた。

私は、印用に使う赤い絵の具で、渦巻き模様を描き、その中に横顔を描いた。
不穏な出来事が渦巻く世界にいても内なる声に耳を傾けるように目を閉じているような表情。
これは後付けな意味合いだけれど、今はそう思っている。

 

 

 

メディアでは連日、朝から晩まで、不穏な出来事で持ち切り。

そんなニュースを姪っ子は、クールな面持ちで黙って見つめていた。
なるようにしかならないと言いたげな表情で。

 

マスクがない、トイレットペーパーがないと大騒ぎしている大人たち。
無いなら無いなりに、使う量を調整したり、代替えするものを探してみたり、作ってみたり、少しの間、待ってみたり、知恵を絞って対応すればいいだけの話なのに、それさえままならない生活とはどんなものだろうか?と疑問に感じた。

確かに先の見えない不安に押しつぶされそうになる時もある。

しかし、ただただ忙しく動き回り、情報に振り回され、ものを買うこと、消費することにすっかり依存しきったこの世界を強制的に止めることでしか見えないことがあるとしたら、それを受け入れるしかない。

 

不謹慎なことかもしれないが、この現象を従来の生活の仕組みを見直すきっかけになる好機として捉え、改めて思考する時間を与えてもらったのだと考えることもできるのではないだろうか。
少なくとも私はそう思いながら、コロナウィルスの一日も早い終息と普通の生活が戻ってくることを願わずにはいられない…。

 

今年は残念ながら、空の彼方まで揚がってゆく連凧の舞う姿は見られなかったけれど、短い時間の中、人々の温かさに触れて、心がホッコリした癒しの時間となった。

東日本大震災から10年目を迎える来年2021年も”笑み舞うスマイルプロジェクト”は継続して行われます。

来年もこの浜辺で会いましょう。

大空とどこまでも続く海辺を見つめる視点の先に、あの日を忘れないと心に誓いながら。

合掌。

(2019年の笑み舞う)

《参考文献》

*丸森町観光案内所ホームページ

【丸森和紙】

丸森和紙の初漉き✩

 

髙橋 典子/Noriko Takahashi

画家

岩手生まれ、宮城県亘理町在住。

2004年から個展活動開始。
個展、グループ展多数。

Horizon(水平線・地平線)をテーマに、日常の中、自己が感じたリアリティーを色彩に置き換えた半具象的な平面作品をミクストメディアで製作。

宮城県をベースとし、関東・関西でも展示。

2016年親かめ子かめにて個展「自然形象~Human as a part of nature」開催。

2016年、2018年、海外遠征グループ・宙色Japan「日仏交流展SUMI」(Espace Japon/フランス・パリ)に参加。

文筆作業として、河北新報・夕刊「まちかどエッセイ」にて連載。(2016.10〜2017.2)
また、2014年1月から、ブログ「My Horizon」を開始。絵の製作のことや日々、感じているモノゴトを綴っている。

”描くことと書くこと”に喜びを感じながら創作活動を行っている。

http://noriko-takahashi.hatenablog.com/

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