【NORI COLUMN Vol.21】音楽と想像性

自然は色彩に溢れ、音に満ちている。
いつだってインスピレーションはそこからやってくるように思う。
触発され、カタチへと落とし込んでゆく作業は、内に籠る行為。
苦しさを伴いながらも、自分の内側に触れるような神秘的な時間。

そんな時に音楽は制作の手助けをしてくれる。
音楽の効果、効用とそれがもたらす影響は多大だ。
日常の空気を変え、彩りや活力、慰めを与えてくれるなくてはならないエッセンスでもある。

 

昔、学生の頃、音楽を聴いてその音楽を立体のオブジェにするという授業があった。
平面構成が全然できなくて、落ち込んでいた後、この授業に切り替わった時、私は水を得た魚のように手を動かしながら木材でオブジェを作ることに夢中になった。それはとても楽しい体験だった。

 

音楽は、常に身近にある。

しかし、人によっては、制作する時に音楽を聴くタイプと聴かないタイプに分かれると思う。

私は、時と場合によるが、結構、音楽をかけて制作するタイプである。

油彩を描いていた際には、画面に挑んでゆく気構えが必要になる。
目の前にあるザラッとしたまっさらなキャンバスと対峙し、調合した油に絵具をつけ、豚毛の筆が画面とこすれる音が無造作に響く。その中で勢いのあるのR&R を流しながらの制作が長い間、続いた時期もあった。空間を己の力で埋め尽くす行為と幾層にも重ねて構築する作業を行っていた時、私の精神状態とそんな音楽がよく合っていたのだと思う。

墨を使うようになってからは、アコースティックな曲が多いような気がする。
ブラジルの音楽など特によく聴いているように思う。
打楽器の乾いた音とギターの独特なコード進行が心地よく、時折、響いてくるレインスティックの音が水の音色のようにこだましてくる。そんな中、作業していると和紙の中、水の力で広がってゆく墨や絵具の動きにフッと水面を思い浮かべてしまう時もある。

 

クラシックがB.G.Mになる時もある。

クラシックの歴史にはあまり明るい方ではないが、20世紀の西洋音楽は、馴染みがある。

それまでの宗教音楽からルネッサンス、バロック、古典派、ロマン派を経て、より個人的な主観で独創的な音楽が作られた時代。

20世紀初頭、フランスで生まれたクラシックの流れに、印象主義と呼ばれる様式がある。

印象派というと絵画においても工業化が進み、チューブ式の絵具が開発され、屋外にキャンバスとイーゼルを持って、風景の中にある光の変遷を描写し始めた時代でもある。

音楽においても映像的な要素が強まり始める。

ドビュッシー、ラベル、サティなどを筆頭に、個人的観点から風景を描写しながらもその作曲家の内面の心象風景と深く結びつくような音楽を印象派と評する一派が台頭していた。

曲の印象としては、長調とも短調ともつかない、その間を縫うようなアンビバレントでありながらも妙なる旋律を奏でながら、音色のアウトライをぼかすように作られた旋律は独特の空気感や雰囲気をまとっている。ピアノの鍵盤の一音一音が音色の絵具となり、絵具の色彩のように光をちりばめたような音色となって耳元に届き、脳裏に映像を映し出すかのように響いてくる。

かなり実験的な作品でもあり、その独自性ゆえか、今も愛され続けている作品も多い。
その音色は、色あせないまま、今もその鮮度、そのままに…。

 

 

そんな印象主義の作曲家エリック・サティの楽曲に触発された書の要素と絵画的な要素の融合した作品の展覧会が行われる。

 

丹野 萩逕(しゅうけい)
個展『Gnossiennesな日々』

 

彼女は、書の文化と墨の多様な表現を伝える海外遠征グループ宙色JAPANのメンバーで、一緒にパリに行って展覧会をした仲間でもある。
小さい頃より書道に親しみ、美術系の学校で学んだ経歴を持ち、独自の表現を模索している。

墨とアクリル絵具を使った作品は、半具象的なものから抽象的な作風にまで及ぶ。絵画のようでありながら、文字の要素とも深く結びついている。

「グノシエンヌ」とは、20世紀のフランスの作曲家エリック・サティの曲のタイトル。

『エリックサティの曲が好き。
グノシエンヌは東洋的な雰囲気と西洋的なものの混在した曲だったのと、
演者への助言が「思考の端末で」「うぬぼれずに」などなど自分にリンクしてしまったことから今回のタイトルにしました。私も墨や絵具など使用し和洋混合なためです。』(丹野 萩逕さん・談)

個展というものは日常では知りえない自分というものが引き出される行為でもある。
そこが少々、怖くもあり、楽しいことだったりもする。

萩逕さんのまた新たな一面と出会えることを楽しみにしている。

展示丹野萩逕 個展「Gnossiennesな日々」

2019年11月20日(水)〜24日(日)

書のようで絵画的な作品を展示致します。エリック・サティの「グノシエンヌ」という曲のように和と洋の融合的な作品です。

アクリル、墨、和紙などを使った作品が約10点を展示。マグネットやバッジ等のグッズも販売。

【時間】10〜17時(最終日16時まで)
【作家在廊日】11/23(土)、24(日)

髙橋 典子/Noriko Takahashi

画家

岩手生まれ、宮城県亘理町在住。

2004年から個展活動開始。
個展、グループ展多数。

Horizon(水平線・地平線)をテーマに、日常の中、自己が感じたリアリティーを色彩に置き換えた半具象的な平面作品をミクストメディアで製作。

宮城県をベースとし、関東・関西でも展示。

2016年親かめ子かめにて個展「自然形象~Human as a part of nature」開催。

2016年、2018年、海外遠征グループ・宙色Japan「日仏交流展SUMI」(Espace Japon/フランス・パリ)に参加。

文筆作業として、河北新報・夕刊「まちかどエッセイ」にて連載。(2016.10〜2017.2)
また、2014年1月から、ブログ「My Horizon」を開始。絵の製作のことや日々、感じているモノゴトを綴っている。

”描くことと書くこと”に喜びを感じながら創作活動を行っている。

http://noriko-takahashi.hatenablog.com/