【NORI COLUMN Vol.20】祭りの後に~After SUMI FES 2019~

そぼ降る雨。

残念ながら、てるてる坊主の願いもむなしく、墨祭メンバーの中にいた雨男たちの氣が勝った天候に。
思っていた以上に寒い一日となった。

それでも墨祭は予定どおり開催された。

あいにくの雨で、吹き抜け真下のおへそ広場にある芝生のパフォーマンスエリアは使えず、地下鉄の駅へと続く通路にパフォーマンス会場を移しての演舞が行われることになった。
しかし、雨にも負けないくらい会場は、高校生たちの熱気であふれていた。

 

オープニングは、おなじみ高橋兄弟率いる和太鼓集団Atoa.による演奏とNPO法人みんな一書によるパフォーマンス。

地球の動きを司る自然界の物質『空・風・火・水・地』の5つの文字を立てかけた紙に書家たちが勢いよく書き上げる。

「SUMI FESスタートです!!」
墨 祭発起人・亀井 勤氏の”亀の一声”で演舞の幕が切られた。

 

今回のゲストの縁筆書家のSoyamaxさんによるパフォーマンス。
中華圏を中心に世界中を駆け回る書家。長い闘病生活から書家へと変身を遂げ、筆一本で世界に挑んでいる。そんな生き様が書の中にしたためられ、生きるメッセージがストレートに伝わってくる。
彼は、18歳~24歳まで宮城県に住んでいたこともあり、今回の台風19号で第二の故郷・宮城が甚大な被害を受けてしまったことへの思いとエールを込め、パフォーマンスに挑んだ。

続いて、おなじみ宮城県白石市の佐久間 玉流さん率いる澄書道塾のパフォーマンス。
今年、開塾40周年を迎えた澄書道塾。
澄塾の記念すべき年に選んだテーマは、地元・白石市のヒーロー片倉小十郎市の言葉。
黒地に白文字で”澄塾”と書かれたお揃いのユニフォームで、息の合ったパフォーマンスを披露してくれた。

そして、”大五郎先生”の名で親しまれている埼玉県在住の書家・渡部 大語さんが今年も参加。
早稲田大学に勤務し、校内の式典や賞状など校内の文字に関わる仕事に長年、携わっていた経験を持つ。震災後、立ち上げたNPO法人・みんな一書にも長い間、関わっている書家の一人でもある。
ゆったりとした空気感と独自の世界観をもった書にファンが多い。
”かつてここに○○があった”のシリーズを実演。
「絶 望」と書かれた文字。
その文字を、木片で消し去るという”行為”によって完成された斬新な一枚「かつてここに絶望があった」が観客の目の前に現れた。

 

 

プロの書家たちのパフォーマンスに続いて、いよいよ高校生書道部の演舞へ。
近年の書道甲子園や映画「書道ガールズ」などですっかり人気が定着した書道部の活動。
今回も仙台市内の高校5校と栃木県の高校2校を含む、計7校のパフォーマンスが展開された。

その姿は、まさに”墨にかける青春”。

J-POP,R&B、懐かしのブルーハーツ、そして、楽器持ち込みの演奏をB.G.Mに、ダンスも交えながら構成されたパフォーマンスが繰り広げられた。この日のために費やした時間を精一杯、紙面にぶつけるように、グループとしての絆とそれぞれの思いが一枚の紙の中に刻み込まれていった。

とうの昔に青春を通り過ぎた者たちにとっても青春のきらめきやほとばしりを分けてもらっている、そんな気がした。

 

今年もワークショップ『筆墨硯紙』をテーマに4ブースが開かれた。
筆のブースでは、渡部大語さんやSoyamaxさんによる実演会と澄塾と一緒に書く水書きシートを利用したワークショップが行われていた。
墨のブースでは、三重県鈴鹿市の鈴鹿墨が今年も参戦。
電子ジャーの中で保温された柔らかい墨を手でこね、握った形がそのまま墨になるという握り棒体験やワンコインで墨の詰め放題なども行われ、かなりのお得感が体験できるブースとなっていた。
硯のブースでは、雄勝のナミイタラボのチームによる雄勝石の硯の販売があったり、硯職人のエンドーすずり館の遠藤 弘行さんも来仙し、工房さながらの実演を見せてくれた。
紙のブースでは、仙台凧の会の皆さんが、オリジナルの凧作りワークショップを行っていた。

 

かたやライブペインティングのパフォーマンスエリアでは、オカベサトシ氏による”筆墨硯紙ができてから”をテーマに、おなじみのオカブーたちが紙面を駆け回るように描かれていた。また、画家の関 真衣子さんの”PASSION(情熱)”をテーマにした墨とアクリル絵具のミクストメディアによるカラフルでパワフルな抽象画が展開された。

 

私は、キッズゲルニカというアートプロジェクトのスタッフだった。
スペインの画家・パブロ・ピカソが描いたスペイン内戦の悲劇を描いた名作『ゲルニカ』と同じ大きさの紙(7.8m×3.5m)に平和への願いを子供たちに自由に描いてもらうことで、その作品をメッセージとして世界に発信するというプロジェクト。
しかしながら、雨のため、使用するエリアが小さくなったため、紙のサイズを変更を余儀なくされた。
”空風火水地”のイメージを中心に置き、地球の生きとし生けるものを子供たちに描いてもらい、それをコラージュするといった感じのものに後から、加工する予定があるらしい。
いろいろともろもろあった中で、即興で構成を決め、色墨をとにかく磨って、磨って、準備をして子供たちや子供の心を持った人たちにも描いてもらった。

 

今回は、元気いきいきファクトリー仙台泉の方々による芋煮のふるまいがあり、暖かい汁物を頂き、大変、有り難かった。すっかり冷えきった体に暖かい汁が流れ込み、五臓六腑に沁み込んだ。

 

予定通り盛りだくさんのスケジュールが展開され、雨にも関わらず大勢の人々がおへそ広場や地下鉄前の通路に集まってくださった。

ご来場ありがとうございました!

 

人は言葉によって励まされ、元気になれる。
一枚の書に託された思い。
改めて言葉の持っている力と書の表現の可能性を雨の中でも楽しめた一日になった。

令和時代においてもなお、書の文化は継続し、冷めることのない熱量をもって、新たな表現方法を模索し、発展し続けることだろう。

 

 

〈アイ キャッチ〉典子・画

 

髙橋 典子/Noriko Takahashi

画家

岩手生まれ、宮城県亘理町在住。

2004年から個展活動開始。
個展、グループ展多数。

Horizon(水平線・地平線)をテーマに、日常の中、自己が感じたリアリティーを色彩に置き換えた半具象的な平面作品をミクストメディアで製作。

宮城県をベースとし、関東・関西でも展示。

2016年親かめ子かめにて個展「自然形象~Human as a part of nature」開催。

2016年、2018年、海外遠征グループ・宙色Japan「日仏交流展SUMI」(Espace Japon/フランス・パリ)に参加。

文筆作業として、河北新報・夕刊「まちかどエッセイ」にて連載。(2016.10〜2017.2)
また、2014年1月から、ブログ「My Horizon」を開始。絵の製作のことや日々、感じているモノゴトを綴っている。

”描くことと書くこと”に喜びを感じながら創作活動を行っている。

http://noriko-takahashi.hatenablog.com/