【NORI COLUMN Vol.17】梅雨紫

作品:髙橋典子「ムラサキにけむる」

四季を彩る、花の変遷。

2月、小さな梅の白い花びらが長い冬を越えて、早春の訪れを静かに知らせる。
やがて、3月になると黄色い花たちが目覚めるように咲き、4月には、日本の原風景の代表格でもある桜が満開になる。
5月には、新緑と共に色とりどりの花が青空に映えるように咲き誇る。

日本の四季とはよく出来たもので、風や湿度などが作り出す気候の微細な変化を色彩によって知らせてくれる。

 

6月も然り。

紫陽花に、いずれアヤメかカキツバタ…。

雨の中、その中にあっても鮮やかに咲く花たち。

憂鬱なこの梅雨時もその姿に傘をさしながらでも愛でたくなるなるような、癒しの花の季節でもある。

その色は、どこか梅雨の中、匂い立つように生まれた空気の層が、花びらに定着したかのような、青味がかったものから紫がかった配色の色味が多いように思う。

その中でもよく見かける”紫色”について、思いを馳せてみたいと思う。

 

 

昔、紫色は、高貴な色であった。

紫色は、アツブリガイ科の貝の分泌物を染料にしたものが由来している。その貝からわずかにしか取ることができなかったので、洋の東西を問わず、とても貴重だったという話は、なんとなく知っている人も多いことだろう。

西洋の王様やキリスト教の聖人、高い位のお坊さんの袈裟、神社仏閣で使われている色の中でも紫色が必ず使われているのは、洋の東西を問わず、高い精神性を象徴しているようだ。

また、医療が発達していなかった頃、紫色には、神秘的な力が宿るとされ、病に伏せている患者に紫の布を掛け、病や邪気を払う呪術的な道具として使われていた。これは、今も紫色がヒーリング効果があるとされ、その為に使われていることにも通じる。紫色が人の五感の中で”感触”と関係が深い色であることに変わりはなく、現代人の精神性を高め、癒す色として使われているように思う。

 

また、紫色とは、高貴なようでありながらも、見る人によっては毒気をはらむ色にも感じられるかもしれない。聖と俗が混じりあったような色彩、それが紫色の本質のような気がする。

 

 
身近な紫色と言えば、以前、紫色を帯びた墨を買い求めたことがあった。

ギャラリー親かめ子かめで販売している鈴鹿墨の8種類の色墨のセット「雪 月 風 花」。

この墨は、三重県鈴鹿市で生まれ、歴史は古く、延暦年間と言われている。鈴鹿の山々に自生する肥松をたいて、煤を取り、これを原料とし墨を作っていたとされる。地理的な風土性がこの地方独自の墨を育んできた。

現在も古来から伝統を継承する手法で、丁寧に 一本一本、手で練り、手作りされている。

 

その中に入っている墨には、各々、名称がある。

天、地、陽、月、雪、樹、花、雅。
青、茶、橙、黄、灰色、緑、ピンク、紫
それぞれに色素の顔料が入った墨。

一番減りの早い墨は、雅だった。
磨る墨の黒に混じって紫の色味を帯びた顔料も同時にじんわりと溶け出し、独特の色彩となる。

 

紫色は、油絵でも墨の絵にしても、独自の浮遊感を持つので、画面が不安定な印象になってしまうこともあり、ちょっと扱いが難しいく技術も求められる色でもある。

 

 

雨降りの中でも、ふっと香る花の匂いに足を止め、その花を観察してしまう。

画家としての視点で、植物の枯れ方を観察していると、葉や枝の緑色がやがて、黄色味に傾き、赤味を帯びながら退色し、やがてつかの間、紫色の領域へと彩度を落としながら入り、最終地点の枯れた茶褐色の色に辿り着く過程を興味深く追うことがある。

枯れ行くものの色彩の変遷を見つめていることは、咲く花を愛でる行為の延長上にある楽しみでもある。一つの植物が持つ、生命としての色彩の移ろいの中、色と色の結びつきの不思議さにさまざまな気づきを得る。そんなまなざしで自然の移ろいに視点を落とす時、密かに宿る自然の神秘を感じずにはいられない。

 

〈参考文献〉

鈴鹿墨HP(http://www.suzukazumi.co.jp/)

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《再告知》

髙橋 典子 個展

『Breath of nature』

の会期が延長になりました。

展示替えも行い梅雨の季節にラヴェンダー色とグリリーンの癒しの空間になりました。

どうぞお気軽にお越しください。

7月5日(金)迄、開催中です。

髙橋 典子 個展 『Breath of nature』
[会期] 令和元年5月1日(水)〜7月5日(金)

[営業時間] 10:00~17:30(L.O 17:00)

[会場] THE AGNESHOTEL AND APARTMENTS TOKYO ティーラウンジ

[住所] 東京都新宿区神楽坂2-20-1
http://www.agneshotel.com/

髙橋 典子

画 家

岩手生まれ、宮城県亘理町在住。

2004年から個展活動開始。
個展、グループ展多数。

Horizon(水平線・地平線)をテーマに、日常の中、自己が感じたリアリティーを色彩に置き換えた半具象的な平面作品をミクストメディアで製作。

宮城県をベースとし、関東・関西でも展示。

2016年親かめ子かめにて個展「自然形象~Human as a part of nature」開催。

2016年、2018年、海外遠征グループ・宙色Japan「日仏交流展SUMI」(Espace Japon/フランス・パリ)に参加。

文筆作業として、河北新報・夕刊「まちかどエッセイ」にて連載。
(2016年10月から2017年2月)
また、2014年1月から、ブログ「My Horizon」を開始。
絵の製作のことや日々、感じているモノゴトを綴っている。

”描くことと書くこと”に喜びを感じながら創作活動を行っている。

http://noriko-takahashi.hatenablog.com/