【NORI COLUMN Vol.15】暮れゆく平成


 

新元号が決まり、時代は新たにシフトチェンジをするかのように加速しつつある。

 

そんな中、私なりに平成の終焉に頭に浮かぶ言葉を選んでみた。

「発信」

「共有」

「自分探し」

 

この3つの言葉は、平成の世の中で、強調され、確実に新しい価値観を含んだものとしてこの時代を象徴する言葉であったように思う。

 

 平成になって一番の変化は、やはりインターネットの出現と台頭にある。

 

携帯電話が普及し、やがて手のひらに乗る小さなパソコンのようなスマートフォンが主流になった昨今。

一人一人がリアルタイムで自分が感じている物事を気軽に発信できるようになった。

そんな時代の新しいメディアを彩るフェイスブック、ツイッター、インスタグラムなどに代表されるSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)が盛んになり、誰しもが発信者となって、有名無名関わらず、平等に自分の意見を伝えることができる場を持った。日々、個人が発する情報が時代の潮流として、タイムラインの中、流れている。そして、情報と共に出来事に対する感情を分かち合うことを表わす「共有」や「シェア」という言葉を耳にする機会が増え、自然と定着していった。日常の中にもう一つの世界が現れたとも言っても過言ではないだろう。

 

 ボーダレスな時代へとシフトしていった時代、それが平成なのではないかと思う。

 

 そこでは画像や動画の視覚的な側面も強いが、やはり言葉の存在も大きいのではないだろうか。

その人の発言によってその人の世界観が見えるようになり、個人としてのアイデンティティーというものが少なからず問われるような時代になったような気もする。

 

 

 ある日、インターネットで偶然、見つけた言葉がある。

「小さいことを積み重ねることがとんでもないところに行くたったひとつの道だ。」

 この言葉は、平成最後の大きなニュースを飾ったイチロー選手の言葉だ。なんだか無性に心に響いて、すぐ書き留めたのを覚えている。

 

平成の31年間の中で、イチロー選手は、日本で9年、アメリカで19年、計28年間のプロ野球人生を送った。

 

3月21日、アメリカ大リーグ(MLB)「2019MLM MLB開幕戦」の第2戦の試合後、20分間に及ぶファンたちのイチローコールが鳴り響く東京ドームでの最後のユニホーム姿。そして、雨音のようなカメラのシャッター音が鳴り響く、深夜の引退記者会見。平成という時代の最後の象徴的な印象を受けたのは私だけではないだろう。

 

私は彼に特別な感情があったわけではないが、ストイックに自らを追い込むアスリートとしての生活を送りながら、毎朝、カレーを食べていることぐらいは知っていたが、テレビで引退記者会見を見たらもっと見たくなり、インターネットの産物でもあるYouTubeで記者会見の完全版を見てしまった。

 若い頃は、クールで愛想のない印象を持っていたが、大リーグへ挑戦するため渡米し、さまざまな球団で経験を積んできた彼の姿は、時間を経て、実に人間味あふれる魅力的な人物として私の目に映った。

 「最低50歳まで、現役を続けたい」と望み、日々、自らに厳しいルーティンを課してきた。その中で、愚直なまでに練習を重ね、試行錯誤を繰り返し、輝かしい記録もさまざまな挫折も味わってきた。

 

『言葉にして表現することが目標に近づくひとつの方法なのではないかと思っている。』

『遠回りすることでしか本当の自分に出会えない気がしている。』

『人が喜んでくれることが一番の喜び』

率直に自分自身の野球人生を見つめるように語る彼の言葉には、飾ることのない誠実さとさまざまな経験によって培われた人間としての豊かさが言葉の端々からにじみ出ているようだった。

 

インターネット上では、さまざまな情報があふれているが、それはあくまできっかけでしかないことが多いように感じる。どんなに文明が発達したとしても人間にとって五感を通した、リアルな体験が一番の宝なのではないだろうか。私は、イチロー選手の記者会見を観ていてそう深く感じた。

 身体を通した経験がその人を形作る。

そして、その人から発する言葉にリアリティーを生むのだろう。

それはどんな時代になったとしてもけして変わることのないものだと思う。

 

インターネットが結んでくれたネットワークというものを活かしながらも、自らの五感を感じ、その感覚を磨くことを日々、意識して、新しい時代へと向かうことにしよう。

髙橋 典子

画家/ライター

岩手生まれ、宮城県亘理町在住。

2004年から個展活動開始。
個展、グループ展多数。

Horizon(水平線・地平線)をテーマに、日常の中、自己が感じたリアリティーを色彩に置き換えた半具象的な平面作品をミクストメディアで製作。

宮城県をベースとし、関東・関西でも展示。

2016年親かめ子かめにて個展「自然形象~Human as a part of nature」開催。

2016年、2018年、海外遠征グループ・宙色Japan「日仏交流展SUMI」(Espace Japon/フランス・パリ)に参加。

文筆作業として、河北新報・夕刊「まちかどエッセイ」にて連載。
(2016年10月から2017年2月)
また、2014年1月から、ブログ「My Horizon」を開始。
絵の製作のことや日々、感じているモノゴトを綴っている。

”描くことと書くこと”に喜びを感じながら創作活動を行っている。

http://noriko-takahashi.hatenablog.com/