窓を開け、暗闇に豆を放つ。

見えない何かに向かって、「鬼は外と!」と声にしながら。
そして、「福は、内!」と明るい家の中に豆を撒く。

節分というと私が思い出すのは、赤塚不二夫の描いた赤顔の鬼のお面。

”豆のでん六”の豆を買うと必ず付いていた鬼のお面。常にこの行事とセットで鬼のお面は記憶に鮮明に残っている。

家では、この付録の鬼のお面にゴム輪を通して、兄妹で替わりばんこに鬼のお面をつけ、遊びつつじゃれ合いながらも、結局、最後は、ベランダの窓から暗闇を鬼に見立て、落花生を撒いていた。そして「福は、内!」と言いながら、競い合って豆を拾っては、ほおばりながら食べていた記憶がある。

 

2月3日は、節分。

読んで字のごとく季節を分ける日でもあり、旧暦では大晦日であった。

平安時代、陰陽師らによって旧年の厄や災難を払い清め、新しい年を迎えるために追儺(ついな)という宮中行事が行われていた。そこで行われていた豆打ちが豆撒きのルーツとされている。

また、昔、京都の鞍馬に鬼が出た時、毘沙門天のお告げによって大豆を投げつけたところ、鬼を退治できたという話が残っており、「魔の目(魔目)」は「魔を滅ぼす(魔滅)」に通ずという言い伝えもあったそうだ。その行事が、室町時代以降、豆を撒いて悪鬼を退治するとなって民間に定着した。

 

鬼ってなんだろう?

改めてとふと疑問が浮かび、重い字引きを引っ張り出してみた。
広辞苑で調べてみるとなかなか長い項目が列挙していて、鬼に関することわざも多く、なかなか面白い。

”隠=おに”と記されている。やはり、目には見えない、姿が見えないものの意味とされているようだ。

邪神や恐ろしい姿をしたもののけ、死者の亡霊、慈悲のない勇猛なものの例えとしても使われる。

「鬼に金棒」、「鬼の目にも涙」、「鬼が笑う」などはなんとなく知っているが、他にもこんな例えがある。

「鬼の霍乱」いつもは極めて壮健な人が病気になること。

「鬼に空念仏」無慈悲な者が心にもない慈悲を装うこと。

「鬼も十八、番茶も出花」
鬼でも年頃になると美しく見え、番茶もでばなは香りが良い。どんな女性も年頃には女らしい魅力が出るといった意味合いを込めたものもある。

また、想像上の怪物でもあり、仏教の影響で餓鬼地獄の赤鬼・青鬼があり、また、美男・美女に化け、音楽・双六・詩歌などに優れたものとして人間界に変幻自在に現れるという説もあって想像力をかきたてられる。

鬼の典型的なイメージでもある人身に牛の角に虎の牙、裸で虎の皮のふんどしは陰陽師の影響から生まれたそうで、このイメージが現在もコントなどで見かける鬼のイメージとして現役であることに実に息の長いキャラクター性を感じる。

鬼は、得体のしれないものをさすことも多いが、もっと身近にある人の心の奥底にあるダークサイドの側面を例えるのにも用いられるようだ。

渡る世間は鬼ばかりか??

くらばら、くわばら・・・。

 

もう一つの面白いエピソードがある。

豆を撒くということは、”桃を投げる”という意味もあるという。

神社の節分祭で神主さんが炒った豆を捧げて、ある祝詞を上げる。

これが日本最古の物語「古事記」に関係した祝詞だという。物語の中で、亡くなった伊邪那美神にどうしても会いたくて仕方がなかった伊邪那岐神が黄泉の国へ行った時のこと。変わり果てた伊邪那美神の姿を見て、愕然とし、そこから逃げ帰る時、追いかけてきた悪霊たちに桃の実を投げて退散させた話にまでさかのぼる。この鬼をも制する桃のパワーにあやかりたいと”その桃の霊力をこの豆に授けてください!”という内容の祝詞を上げているのだという。その桃の霊力が豆に降り宿ることで桃にも匹敵する力があるされているのだ。

本気で験を担ぎたい人は、神社へ赴き、節分祭でこの古事記由来の祝詞をあげた豆を貰って、その豆を撒くのが邪気払いには一番効果があるようだ。そして、良い福を招くことができるかもしれない。

豆を撒いて、歳の分だけ食べるとその年は病気にならずに済むということだったが、ここ最近は、験担ぎの恵方巻の方が幅をきかせているような気がする。両方してしまうという験担ぎ好きな人もいることだろう。

今なら、インフルエンザのウィルスなどが目に見えない鬼として対象になったりするのかなぁと思いつつも、今年も健康であることを願いながら、暗闇に向かって、豆を撒いてみようかと思う。

 

《参加文献》

*「古事記・完全講義」竹田 恒泰・著

*広辞苑

*甘春堂ホームページ

 

 

 

髙橋 典子

画家/ライター

岩手生まれ、宮城県亘理町在住。

2004年から個展活動開始。
個展、グループ展多数。

Horizon(水平線・地平線)をテーマに、日常の中、自己が感じたリアリティーを色彩に置き換えた半具象的な平面作品をミクストメディアで製作。

宮城県をベースとし、関東・関西でも展示。

2016年親かめ子かめにて個展「自然形象~Human as a part of nature」開催。

2016年、2018年、海外遠征グループ・宙色Japan「日仏交流展SUMI」(Espace Japon/フランス・パリ)に参加。

文筆作業として、河北新報・夕刊「まちかどエッセイ」にて連載。
(2016年10月から2017年2月)
また、2014年1月から、ブログ「My Horizon」を開始。
絵の製作のことや日々、感じているモノゴトを綴っている。

”描くことと書くこと”に喜びを感じながら創作活動を行っている。

http://noriko-takahashi.hatenablog.com/

展示情報 交通アクセス ギャラリー使用について