私たちの心の中には、たくさんの思い出が詰まっている。
さまざまな経験というエッセンスが皮膚から吸収され、身体の細胞にまで浸透し、その人をさらに形作っているように感じることがある。
人と人との出会いによって、彩られる人生。
最初に出会う父と母との思い出は、人生の中、一番濃い純度として私たちに影響を及ぼす。
たくさんの遺伝子を与えてくれた人たち。
おしめを替えてもらい、母乳を糧に少しずつ成長し、共に遊びながら生きてゆくためのルールを覚え、この現世の世界に少しずつ馴染んでいくための術を教えてくれたり、手助けをしてくれた。
しかし、思春期に入り、次第に自分の中に自我の意識が芽生え始める。
時代背景やそこから生まれてくる価値観の違い、さまざまな事柄が絡み合い、親の望むように生きられないことから摩擦が生まれ、反抗したり、理解を求めたりしながら、その葛藤によって、自分のアイデンティティーが何なのかを見つけるきっかけを与えてくれた。
さまざまな時期を共に過ごし、愛情をねだってみたり、時には、憎んでみたり、さまざまな喜怒哀楽を共に味わい、互いに学び合うのだろう。
そして、親が年老いて、だんだんと小さくなり、少しずついろんなことができなくなってくる時、子も親について考える。
介護は、自分が育ってきた延長上にあるのではないかと。
何がその人にとっての最善なのかを手探りで探す・・・。
自分にとって、後悔のないよう全力を尽くす。
けれどいつだって、後悔は拭い去れない・・・。
その人が旅立った後、その人の存在の大きさを心底、思い知る。
旅立った親も子供に寄り添い続けているのだろう・・・、きっと。
目に見えない世界を目に見えるように形作ることを糧に生きいる者にとって、正直なほどに、作品は、自分自身の生きてきた人生が作品ににじみ出る。自分自身というものが表象として現れてくる。
そのことを怖がってはいけない。
だたありのままに向き合うこと。
自分に起こった事象を製作しながら、解き放ち、それはやがて気持ちを整理してゆく過程となり、気持ちを癒す役割さえ担っているように感じる。
そして、個展という形式は、ひとつの個人的ドキュメントなのだと思う。
Reminiscence -思い出-。
佐藤 華炎さんの展覧会のタイトルでもある。
自作詩と独自の墨象の世界、そして、斉藤茂吉の短歌「死にたまふ母」に材をとり、母を悼む作品なども展示されます。
墨の色彩の中に、
墨の象や滲みの中に、
自ら紡いだ言葉の中に、
一つの人生の帰路に立った墨象家の心情の世界に触れることができることでしょう。
今回は、華炎さんのご厚意で、私も友情参加させて頂くことになり、新作を展示させて頂きます。
どうそご高覧ください。
「Distance」
髙橋 典子
画家/ライター
1970年、岩手生まれ、宮城県亘理町在住。
2004年から個展活動開始。
個展、グループ展多数。
Horizon(水平線・地平線)をテーマに、日常の中、自己が感じたリアリティーを色彩に置き換えた半具象的な平面作品をミクストメディアで製作。
宮城県をベースとし、関東・関西でも展示。
2016年親かめ子かめにて個展「自然形象~Human as a part of nature」開催。
2016年、2018年、海外遠征グループ・宙色Japan「日仏交流展SUMI」(Espace Japon/フランス・パリ)に参加。
文筆作業として、河北新報・夕刊「まちかどエッセイ」にて連載。
(2016年10月から2017年2月)
また、2014年1月から、ブログ「My Horizon」を開始。
絵の製作のことや日々、感じているモノゴトを綴っている。
”描くことと書くこと”に喜びを感じながら創作活動を行っている。