自称・雨男さんから雨にまつわる言葉を集めた本を借り受けた。
『雨のことば辞典』(倉島 厚、原田 稔・編著/講談社学術文庫)
表紙に使われているのが、歌川 広重の描いた「名所江戸百景・大はしあたけの夕立」。あのゴッホも模写した浮世絵の名作でもある。
暗雲が立ち込め、急な雨に着物の裾をまくり、急ぎ足で橋を渡ろうとする人々の姿が生き生きと描写されている。
この本には、最近、生まれたゲリラ豪雨という言葉から、風花、驟雨、小糠雨、晴耕雨読など、1,200語という科学的気象の専門用語から中国由来の言葉、日本の方言まで雨にまつわる言葉が収められている。
これだけ雨の言葉があるということは、日本には、他の国にはない四季が織りなす豊かな風土というものがあるのではないかと改めて感じた。
その風土性が繊細な日本人独特の情緒性にも繫がっているのかと思う。
風土性に深く関係するのが、大気の中、漂う水分としての湿度なのではないだろうか。
大気や雲、雨にまつわる言葉を辿るとき、微細な感性で周りものの気配まで事細かに分けることで、独自の情緒性の機微を言葉で表したいという内的欲求から生まれ出た言葉もたくさんあったのだろう。
それが和歌や短歌、俳句などの言葉の世界に色濃く反映し、さまざまなカテゴリーを生み出してきたのだと思う。
例えば、「雨燕-うえん-」
ツバメは、雨が降りそうな時は、地面すれすれを飛ぶ。
雨が近づくと湿度が強くなり、羽の重くなった虫が地表近くを飛ぶため、虫を追うツバメも自然と低く飛ぶのだという。
その言葉をなんとなく覚えていたら、目の前を低空飛行で横切るツバメを見つけ、その後、雨降りとなったり。なるほどなぁ~と感心してみたり。
「定めなき雨」
その時々に降る雨「時雨」と同じ意味を持つ言葉。
秋の末から冬の始まりに急に降っては、すぐにやみ、やんだかと思ったらまた降り出すような定まらない雨のことをいう。雨の降り方の中にも人生のはかなさを感じ、そこに日本人特有の美意識を見出している。これは虫の鳴声や風の音の感じ方にも同様の傾向が見受けられる。
私が気に入ったのは、「風の実」
愛知県で生まれた言葉で、風まじりに降る小雨のことをいう。雨を風から生まれたものとした例えは、なんだか可愛さすら感じてしまう。
先人たちの想像力と観察眼によって生まれた言葉の数々にただただ関心する。
雨は、次の季節へと移り変わる幕間にも似て。
とりわけ梅雨には、大地を潤す大きな役割もある。
この季節も”今日の雨は、なに雨かしら?”と先人たちが生み出した雨の言葉といっしょに想像しながら楽しんでみたいものである。
髙橋 典子
画家/ライター
1970年、岩手生まれ、宮城県亘理町在住。
2004年から個展活動開始。
個展、グループ展多数。
Horizon(水平線・地平線)をテーマに、日常の中、自己が感じたリアリティーを色彩に置き換えた半具象的な平面作品をミクストメディアで製作。
宮城県をベースとし、関東・関西でも展示。
2016年親かめ子かめにて個展「自然形象~Human as a part of nature」開催。
2016年、2018年、海外遠征グループ・宙色Japan「日仏交流展SUMI」(Espace Japon/フランス・パリ)に参加。
文筆作業として、河北新報・夕刊「まちかどエッセイ」にて連載。
(2016年10月から2017年2月)
また、2014年1月から、ブログ「My Horizon」を開始。
絵の製作のことや日々、感じているモノゴトを綴っている。
”描くことと書くこと”に喜びを感じながら創作活動を行っている。